遺言を作るかどうか考えている人の最初の疑問は、誰かに作ってもらったほうがいいのか、自分で作れるのか、ということではないでしょうか。
遺言の勉強をすれば自分で作れるようになるかもしれませんが、どれだけの知識があろうと関係なく専門家に遺言を作ってもらうべき場合があります。
具体的には次の場合です。
- 相続時に大きなトラブルが想定される場合
- 相続人以外に財産を残したい場合
- 相続財産が多岐にわたる場合
この記事を読めば、自分で遺言を作るべきではないケースがどんなときなのかわかります。
内容
1 相続時にトラブルが想定される場合
一口にトラブルと言っても様々ですから、常に専門家に相談すべきというわけではありません。
しっかりと勉強すれば自分で作っても問題ないケースの方がずっと多いですから、専門家に依頼すべきと断言できるのは大きなトラブルが想定される場合だけです。
ここで言う「大きな」トラブルが想定される場合は、シンプルに
- きょうだい間の折り合いが悪い
- 不公平な遺言を作成する予定
の2つを押さえておけば最低限問題ありません。
それぞれ説明していきます。
1 きょうだい間の折り合いが悪いケース
きょうだい間の仲が悪ければ相続の際揉めるのは容易に想像がつきます。
遺言を作成さえしておけばその揉めごとを回避できると思っているかもしれませんが、甘いです。
遺言を作成すれば確かに分け方で揉めることは回避できますが、分ける手続きで揉めますし、揉めなくとも連絡を取り合う中で争いが生まれます。
大切なのはきょうだい間で直接やりとりをすることなく遺産を分けられるようにしておく必要があるということです。
そのため、遺言執行者を相続人の誰かにすることは不適切です。そうしてしまうと遺言執行者となった相続人に過大な負担をかけてしまうことになるからです。
非協力的な相続人を説き伏せて遺言執行することはとてもストレスが溜まります。
遺言執行者が専門家ではない場合、手続きに苦労するのは明らかですから、遺言執行者への就任を拒否して裁判所に別の遺言執行者の就任を要請することも少なくありません。
そのようなことにならないよう、あらかじめ専門家に相談し、専門家を遺言執行者に選任しておきましょう。
専門家の選び方は別の記事で詳しく書きますが、自分よりも確実に長生きしそうな人や法人に依頼しましょう。どんなに経験があろうと老年の専門家に依頼することは避けた方が良いです。
2 不公平な遺言を作成するケース
遺言の内容が不公平だったり、形式的には不公平でなくとも相続人が不公平と感じる内容だったりすると、遺言の効力が争われる可能性が出てきます。また、遺言の効力を争うところまではいかなくとも、不満を抱く相続人が、遺言に従った分割を妨害してくる可能性があります。
まずは、「不公平」のレベルを3段階で整理します。数字が小さいほうが不公平の度合いが大きいです。
- 遺留分を侵害する
- 遺留分を侵害しないが法定相続分と大きく異なる
- 法定相続分を多少修正したにとどまる
1 遺留分を侵害する
遺留分とは、相続人が相続財産に対して確保することが保障されている最低ラインのことです。遺留分がある相続人は配偶者、子(子がいない場合の孫)、親(親がいない場合祖父母)であり、相続人の兄弟姉妹に遺留分はありません。
遺留分の範囲は、配偶者と子は法定相続分の2分の1、親は法定相続分の3分の1です。
例えば、被相続人(死亡する人)が父で、相続人が妻・長男・長女、遺産が1200万円の場合、妻に全てを相続させる遺言を作成したとしても、長男と長女は妻に対してそれぞれ150万円(法定相続分である4分の1の半分)を請求することができます。
遺留分を侵害する遺言を作成することは、法が予定している最低限の公平を守らないことを意味するので基本的に揉めます。
遺留分を主張される形で争われるのは仕方ないと思いますし、遺産を相続する人が遺産からお金を払えば解決するのでそこまで大きな問題にはなりませんが、遺言が無効であると争われると最悪です。
解決までに数年を要しますし、解決するまで誰も遺産を動かせなくなることがあります。
そうならないようにするには、遺言の作成過程を保存しておき、遺言が遺言者の真実の意思に基づくことが誰から見ても明らかと言えるような作り方をする必要があります。
そのためには弁護士の関与が不可欠です。このケースに限っては他の専門家では力不足です。なぜなら、相続争いを解決したことがある専門家は弁護士だけ(他の専門家は法律上関与できません)であり、その争いが生まれないよう未来を予想して対策が打てるのは弁護士だけだからです。
私は業務上、司法書士や行政書士が作成した遺言に多く触れてきました。比較的平等な遺言については問題がないことがほとんどですが、不公平な遺言に限っては出来が悪いと言わざるを得ません。
したがって、よほどの事情がない限り弁護士に遺言作成を依頼しましょう。
遺言執行者も弁護士になってもらうのが望ましいですが、アンフェアな遺言を作成した弁護士が遺言執行者になると、相続人から信用されず揉めることがあるため、弁護士によっては遺言執行者への就任を断ることがあります。その場合は、知り合いの別の弁護士を紹介してもらいましょう。
2 遺留分を侵害しないが法定相続分と大きく異なる
遺留分を侵害する遺言と比べると紛争化する可能性は低いです。
遺言の方式や内容が適切であればほとんど揉めることはないでしょう。
とはいえ、不公平な遺言である点は同様であり、相続人間で対立する可能性は否定できませんので、特に反対する理由がなければ弁護士に遺言作成を依頼することをお勧めします。この場合だと遺言を作成した弁護士がそのまま遺言執行者にもなってくれます。
遺言作成を自分で行う場合でも、一度は弁護士に作った遺言を見てもらいましょう。
3 法定相続分を多少修正したにとどまる
このケースは専門家への相談は必須ではありません。
不安があれば相談する程度の認識でも大きな問題にならないと思います。
裏を返せば、遺言の内容や形式について不安があれば迷わず相談しましょう。
争いになる可能性は低いため専門家の種類はこだわらなくて良いと思います。
前述のケースと同様に自分よりも先に亡くなりそうな人は避けましょう。
2 相続人以外に財産を残したい場合
この場合だと遺産の分配を相続人に任せることができませんから必ず第三者に頼む必要があります。
相続人に伝えておけば遺言者の希望どおり分けてくれるはずだと思うかもしれませんが、相続人全員が協力すれば遺言を無かったことにして遺産分割をすることが事実上可能です。相続人が信用できる信用できないという問題ではなく、遺言を無視できてしまうという構造上の問題があるのです。
そのため遺言を必ず実現してくれる第三者を遺言執行者(遺言の内容を実現する権限を持つ人)に選任する必要があります。そして、相続人以外に財産を残すケースだと遺言執行者が相続人と対立することがあるので、遺言執行者は相続の専門家にする必要があります。
財産を受け取る人(「受遺者」といいます。)を遺言執行者にしておけばしっかりとやってくれるんじゃない?と思うかもしれませんが、受遺者は大抵遺産を受け取ることに強いこだわりがなく、それよりは面倒なことに巻き込まれなくないと考えが大きいため、相続人と対立してまで財産を積極的に確保しようとする人は稀です。
そのため、いざ相続が始まると受遺者が遺言執行者への就任を拒否して、裁判所で別の遺言執行者の選任を求める手続きを踏むことになり、結局、受遺者や相続人の手間を増やしてしまうことになります。
確実に受遺者に財産を渡すために専門家に遺言の作成と遺言執行者への就任を依頼しましょう。
紛争性があるわけではないので、専門家の種類はこだわらなくても良いと思います。
3 相続財産が多岐にわたる場合
相続財産が多岐にわたると遺言の内容が複雑になり、財産に漏れがあるなどのミスが発生する可能性が高まります。
次に、財産が多いと各相続人に取得したい財産の希望が出てくるので、将来相続人になる方々にヒアリングをすることが望ましいです。
また、分け方によって相続税に大きな差が発生しうるので、相続税を気にする場合はシミュレーションをしておきたいところです。
このように将来の紛争の予防というよりもテクニックの面で専門家に相談することが望ましいです。
この場合の専門家は、弁護士、税理士、信託銀行が良いでしょう。
ちなみに相続税対策に重きを置く場合であっても、弁護士も信託銀行も税理士と共同して遺言を作成するので、税理士でなくてはならないというわけではありません。
4 まとめ
以上のとおり、
- 相続時に大きなトラブルが想定される場合
- 相続人以外に財産を残したい場合
- 相続財産が多岐にわたる場合
においては必ず専門家に相談しましょう。
自分で作れると思っても、何か一つ間違えればその高い代償を相続人や受遺者が払うことになります。
あなたの財産をスムーズに受け渡すために、少なくとも一度は専門家に相談しても損はないでしょう。