遺産分割

遺産分割協議書に印鑑を押して欲しいと言われたら

父が亡くなり、兄から遺産分割協議書が送られてきました。私にもいくらかもらえるようですがどのような遺産があるかわかりません。来週実家に行くことになっています。

なんとなく遺産分割書の作成に応じないほうが良いのはわかっていますが、兄は高圧的でこれまでのように言い負かされてしまうと思います

どうすれば良いでしょうか

弁護士ぷんすか
100%納得できる内容でない限り押印するのはやめましょう。

不本意な相続は気持ちの面で長く引きずることになりますし、後から協議の無効を主張するのは困難です

これは本当によくある相談です。

応じてはいけないということは誰もが理解しているのに、いざ自分の話になると立場の強弱や被相続人との関係性などから不利な相続を受け入れてしまうようです。

この記事では、遺産分割協議を一方的に進める際のよくあるやり口とその対策について説明をします。

よくある手口とその対策

遺産の内容を開示しない

被相続人(亡くなった人)の遺産をどう分けるかを決めるためには、どのような遺産があるのかを把握する必要がありますが、その内容を開示しないで遺産分割を進めようとする相続人(遺産を承継する人)がいます。

こういうことをしてくるのは、大抵は被相続人と同居していたり、近くに住んでおり晩年世話をしていたりした相続人です。

当然開示を求めるべきなのですが応じてくれないことが多いです。

遺産分割ができないと相手も困るはずなのでいつかは開示してくれると思うかもしれませんが、遺産分割をしなくても被相続人の自宅不動産に住み続けることはできますし、被相続人が死亡したことを金融機関に知らせなければ被相続人の預金を下ろすことができますから、こちらが動かない限りいつまで経っても状況が変わらないということがあり得ます。

そのため、遺産の内容を把握するために自ら動くことが必要です。

預金については、被相続人の口座のある(ありそうな)金融機関に当たって残高証明書や取引履歴を取得しましょう。

相続人であれば他の誰の協力も必要なく取得できますので、金融機関に相談してみましょう。

取引履歴は過去遡って10年間分は保管されています。

期間が長くなると費用が高くなるので、費用を抑えたい場合には、被相続人の体調や財産の管理状態から遡る期間を決めるのが良いと思います。例えば、相手が親の介護のためと言って実家に入り浸るようになったタイミングがあるなら、その少し前から取得といった具合です。

不動産の所在がわからない場合は、所在地の市区町村から名寄せすることによって把握することができます。

市区町村もわからない場合には難しいですが、把握できない不動産があるケースだとほとんどの場合相続税が発生すると思いますので、次に述べるように相続税申告手続きの過程で内容を把握することができます。

遺産の内容は開示してくるが分け方を一方的に決めてくる

1人の相続人が、遺産を全て管理している場合であっても、相続税が発生する場合には遺産の内容を開示してくれます。

相続税申告をする際、申告書には遺産の全てが記載されるため、情報の共有がどのみち避けられないからです。

そうすると正しい遺産目録を前提とした遺産分割協議書が提示されるわけですが、このような場合でも明らかに不平等な内容の提案がされることがあります。特に多いのが不動産について不正確な評価をした提案です。

遺産分割を行う上での不動産の評価額は実勢価格が原則ですが、相続税申告の際には路線価を基礎にします。

相続における不動産の評価額【公示価格・固定資産税評価額・路線価格・市場価格】

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そのため、一方的に送られてくる遺産分割協議書は、大抵路線価ベースで評価した不動産を相手が取得する内容の提案となっています。

一般的に実勢価格よりも路線価の方が評価額が低いため、その不動産を取得する相続人が本来取得が認められるよりも多くの預金などを取得できることになるわけです。

また、被相続人が法人を持っている場合、法人の金銭的価値を法人が保有する財産価値よりも低く評価することができます。

他にも特別受益を考慮していないこともあります。

このように、遺産の内容が開示されており一見公平な分割案であったとしても、実際には不公平ということはよくあります。

不動産の評価額を知りたければ、不動産業者に査定を依頼してみましょう。

遺産分割協議を焦らせてくる

不公平な遺産分割協議を進めようとする人は、一週間以内に印鑑登録書とともに返送しろとか、四十九日に成立させるので実印を持ってこいとか述べて、とにかく遺産分割協議を急かしてきます。

他の相続人にじっくり考える時間を与えたくないですし、特に誰かに相談される困るからです。

遺産分割協議は被相続人が生前築き上げた財産全部をどうするかを決めるものです。

経済的には、家を買うのと同じかそれ以上に重要な意味を持ちますからじっくり考えて当然です。

遺産分割協議自体にタイムリミットはありませんから、不当に短い期限を設けてきたらよからぬことを考えているのはほぼ確実です。

弁護士ぷんすか
遺産分割協議に関係するタイムリミットは相続税申告期限くらいです

ここで、相続税申告の期限についても簡単に説明しておきます。

相続税申告の期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月であり、この時までに申告と納税を済ませる必要があります。

遺産分割が成立していない状態で相続税申告を行うと様々な控除が使えずに相続税が高くなるため、相続税申告の1〜2ヶ月前には遺産分割協議を成立させるのが普通です。

もっとも、未分割で申告することも可能です。

その場合は一度控除のない税金を全て払い、遺産分割協議後に払いすぎた税金を取り戻します(更正の請求)。

したがって、未分割申告だと税金が払えなくなるというような事情がない限りタイムリミットはありませんのでさほど気にする必要はありません。

遺産分割協議書を作ってしまうと後から覆すのは難しい

遺産分割協議書は実印で押印する必要があり、また、印鑑登録証明書も添付します。

普通、このような行為をとるには慎重になるものです。

実印による押印の重要性から、裁判上、実印の押印がある書面は本人の真意によるものと推認されます。

したがって、相手が遺産の内容がはっきりしたら作り直そうとか、これは相続税の関係で暫定的に作るものだから後で正しいものを作るとか、実際には書面と異なる分割をするとか言っていたとしても、そのような経緯を後から立証できない限り、書面どおり分割に従うことになります。

書面の内容と実際の約束は異なるという主張は、基本的に通らないと思っておきましょう。

仮に後から裁判で争える材料が揃っていたとしても、その前に遺産分割協議書に基づいて相手が不動産の登記を移して売却したり、預金を下ろしたりして財産を散逸させてしまえば、回収できなくなくなる危険があります。

当たり前の話ですが、理解して納得した書面ではないのであれば実印は押してはいけません。

遺産分割協議書をその場で見せられて押印しろと言われても理解なんてできるはずがありません。

相手に実印を持ってくるように言われてもうっかり忘れていきましょう。

まとめ

以上、一方的な遺産分割を求めてくる手口とその対策について説明をしました。

とにかく重要なのは遺産分割協議書に署名押印を求められてもすぐには応じないことです。

内容に100%納得ができないのであれば応じてはいけませんし、自分で正しい判断ができる自信がないのであれば、必ず誰かに相談しましょう。

相談相手は専門家でも友人でも誰でも良いです。

私は弁護士としてこれまで遺産分割協議書を作ってしまった人から相談を受けたことが何度もありますが、手遅れであることが多いですし、争う余地があったとしても楽観的な見通しを伝えることはできません。

一度の署名押印だけで遺産分割の結果がほぼ決まってしまうことは覚えておきましょう。

  • この記事を書いた人

ぷんすか

弁護士歴約10年、これまでに約250件の相続事件を処理してきました(相談のみを含めない)。 遺言や相続について有益な情報を発信できるように頑張ります!

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